レース回顧 高松宮記念

直線が長く、急坂がそびえる中京の芝1200mで行われたスプリントGI。芝はAコース使用3週目になり、内めが少し荒れているという状態だった。当日は午前に雨が降り出し、稍重の中で争われることになった。

ハナを奪ったのは快足牝馬アンバルブライベン。絡んでくる可能性があったハクサンムーンは競ってこず、予想されたよりもペースは落ち着いた。前半の3ハロンは11秒9-10秒7-11秒4の34秒0。当日は2つ前の9Rに同じ舞台の1000万下特別が置かれていて、前半3ハロンが33秒5と、こちらの方が速かった。

直線はアンバルブライベンの後ろを走っていたエアロヴェロシティ、ハクサムーン、ミッキーアイルの3騎の争いになった。勝ったのは香港から挑戦したエアロヴェロシティ。3頭の間を割ってグッと抜け出し、世界的な実力者の底力を見せつけた。なお、後半3ハロンのレースのラップは、11秒6-11秒3-11秒6の34秒5だった。

◆1着 エアロヴェロシティ(4番人気・4番枠) パートン
内めの4番枠、ヤネは日本でもおなじみのザカリー・パートン。ゲートが開いてポンと好スタートを切り、外からブライベンが行くと、パートンが内も確認して2番手に収まる。ラチ沿いは避けていて、3コーナーでハクサンムーンが上がってきた時も、かなり離れてくれていたので動じず走ることができた。

4コーナーでも手応えは十分で、直線で大きめに外に動かしていった。これはもちろん、馬場のいいところに出すための行動である。急坂の部分に来ると、頭が上がって走りづらそうにしていた。パートンはハクサンの外に持ち出し、後ろから伸びてきたミッキーアイルの内に併せる形になった。

馬体が並んだことで気持ちが乗ったようで、アイルに食らいついていく。坂を登り切って残り200mで左手前に替え、アイルと一緒に伸びた。最後は3頭の真ん中に入り、右手前に戻してグッと抜けて勝利をものにした。着差は半馬身で、勝ち時計は1分08秒5(稍)だった。

2月15日の香港での競馬から16キロ減って524キロ。中京競馬に移動してから少しテンションが高くなっていたようで、その分の馬体減だろう。ただ、パドックで見て、細くなっている感じはなかった。

驚くべきはエアロの地力の高さと根性である。左回りを走ったのは、ニュージーランドでのデビュー戦以来で3年ぶりのこと。中京のような急坂を走るのも初めてで、道悪の経験もなかった。さらに海外遠征も初である。

どんな強い馬でも、このような状況で力を発揮するのは難しいだろう。しかし、終わってみれば完勝である。ラストの1ハロンなど、11秒3か11秒4という速いラップ駆けている。

香港の強いスプリンターは、速いだけでなく、スタミナとパワーを備えている。エアロは7歳のセン馬。秋にスプリンターズSを使うプランがあり、ふたたび雄姿を見ることができるかもしれない。

あと、パートンの追いはさすがだった。今や日本でも世界の名手の騎乗ぶりを身近で見ることができるようになったが、パートンは中でも最も追えるジョッキーの一人である。

今回、直線最後は左腕で風車ムチを炸裂させ、右腕でグイグイと追っていた。そのパワーは凄まじく、タイミング良く首を伸ばし、馬自身を伸ばし、エアロの根性も重なって勝利をつかむ結果となった。次にパートンが来日した時には、意欲的に馬券を買いたいと思っている。

◆2着 ハクサンムーン(6番人気・15番枠) 酒井学
外の15番枠からのスタート、ヤネは主戦の酒井学。ゲートが開いて一完歩めはいつも通り遅めで、二の脚が速くて一気に前にいく。内を避けて外めを走らせ、ブライベンとエアロの後ろで離れた外を進む形になった。

道中は前向きに走っているが、息が入っていないわけではない。3コーナーから下り坂を上がっていき、直線に向かう前で外から先頭に出ていた。直線に向いて抜け出し、酒井は坂に入って早めに追い出しを開始した。

急坂をしっかりと登り、1馬身と少しリードを取る。残り200mを過ぎ、100mでもそのリードを守ってゴールを目指した。最後の最後で少し鈍った感じになり、そこをエアロに差された。それでも何とか2着に残った。

酒井はコースロスを覚悟で外を攻めたもので、結果的に正解だった。ハクサン自身も持ち前のスピードと闘争心を活かして質の高いスプリンターらしい走りを見せた。栗東の坂路でしっかりと攻められていたし、デキが上がっていたことも好走因の1つである。

◆3着 ミッキーアイル(3番人気・16番枠) 浜中俊
外の16番枠からのスタート、ヤネは主戦の浜中俊。ゲートの出は良く、浜中がすぐに抑えにかかる。ポジションは好位の後ろの外にになり、少しムキになって走っていた。コーナーに入っても落ち着かず、浜中が必死に手綱を抑えていた。

直線に向いてすぐには仕掛けず、急坂に入ってしごき出した。坂をそう苦にはせずに伸びたが、前のハクサンも脚を使っていて、内に併せてきたエアロも渋太い。残り100mからは3頭のせめぎ合いになり、内の2頭に競り負けた。

最後で抜け出すまでの脚を使えなかったのは、道中でハミを噛んだ分だろう。それでも完ぺきな競馬ができなかった状況で勝ち負けに加わるのだから、非凡な能力とスプリント性能は示した。次走は安田記念(6月7日)を予定している。

◆13着 ストレイトガール(1番人気・18番枠) 岩田康誠
大外18番枠からのスタート、ヤネは主戦の岩田康誠。ゲートが開いて出脚はひと息で、岩田は無理には出さずに抑えていく。中位の後ろの後方寄りで、外でタメる形になった。

4コーナーに来て岩田がしごき出したが、反応はひと息。直線の急坂では、重心が下がらずに推進力が出なかった。ストレイト自身、気持ちが乗っていなかい感じだった。結局、目立つ脚を使えずに13着に終わった。

今回は12月の香港スプリント以来で3ヵ月半ぶりの実戦。完ぺきといかないまでも力を出せる仕上がりにあったと思うが、闘争心が戻っていなかったようだ。馬場に嫌気をさした部分もあるだろう。6歳の牝馬だが、まだまだやれるはず。次走であらためて期待したい。